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Time to say good-bye
2025/05/18[Sun]
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2008/01/18[Fri]
※This is a dream novel ( nearly ) .
 Are you all right ?

「彼女は寝ないよ。」胸中の訝しげな視線を恐るべき洞察力で読み切った男はそう一言口にした。とても、悲しそうな微笑で。廊下に一人の足音のみが吸い込まれて反射して吹き返す。狂い無く響く音に飲まれながら暗闇の中をまるで黒猫のように夜目の利いた目で歩く。そうして先ほどのワンシーンの幾度目かを脳裏でリプレイしながら。―生き急いでいるんだね。ねぇ、神田くん?人間が一生のうちに寝て過ごす時間の長さを知っているかい?凡そ一般、25年だ。勿体無いよね。それでも逃れられないだろう?だってそれは、残りの数十年を過ごすのに必要な時間なんだ。でも、彼女はね、―捨ててしまった、だと?そのようなことが本当に可能なのだろうか。反響するのは同じ問いだ。確かに事実、彼女が寝入ったところを一度も見た事は無い。何度も任務に同行していれば否が応にも同じ部屋で寝なければならなくなることもある。それでも、彼女は一度だって寝ようとしなかった。気を遣っているのだと思った。余計なことしやがってと思いつつも次の日の命さえ知れぬ戦い、疲労感を少しでも癒すために睡眠は欠かせず一人先に寝た。起きたら起きたで清廉な声でおはようなんて言うから最初こそ眉間に皺を寄せていたが今ではもうそれを気にする事もなくなった。それでもどこか引っ掛かっていたのだ。こいつ、いつ寝てんだ?と。起きてみれば大抵いつも書きかけのレポート用紙にその日までに書ける最大限の報告書が出来上がっていた。またそれが一筆の乱れも無い字の羅列だっただけに余計に気になった。考えれば考えるほど先程の言葉が、シーンが、そしてあの男の表情が、頭の中でよぎる。巻き戻しをくりかえす壊れたテープレコーダを自分では止められないままに、自分の部屋へ向かうのとは違う廊下を曲がった。そして任務に駆り出されるあのときのように、ドンドンドンッとドアを乱暴に叩いた。時刻は夜中の2時を回ったところだ。大抵の人間ならすやすやと心地よい睡眠波に揺られている頃だろう。起きない人間だっているだろうし、起きたとしても寝起きの簡易な身支度しかでるはずもない。なのに、彼女は、今日も一糸乱れぬ姿で、掠れぬ声でその扉を開けた。「ああ、カンダ。こんな遅くに何?新しい任務でも?」しれっと何事も無いように動揺ひとつしない彼女になぜだかひどく苛立った。「おまえ…」不思議そうに見上げる双眸は綺麗な漆黒でその心など読めるはずもない。「寝ないってどういうことだ?」戦場に身を置くならばそれなりの働きはもちろんのこと、そのクオリティを下げぬためにも休息は与えられた権利であり、むしろ義務だ。それなのに、どうしておまえは寝ようとしないんだ?言葉は寸分の狂いも無く核心を射抜く。言葉が感情の泉に波源を与えてそれに応えるように一瞬驚いたように目を丸めた彼女は、またすぐにもとの穏やかな瞳に戻った。「カンダ。寝ないという表現は少し違うよ。わたしはね、寝る方法を忘れてしまった。寝れないんだ。」ひどく生き急いでここまで来てしまったからね、と呟くと、あの男と同じように、悲しそうに笑みを馳せた。そうしてあの男の最後の言葉がもう一度脳裏に帰ってくる。“残念だけれど、だからきっと彼女はそんなに長くは無い”

( 急がなければ壊れてしまっていた )
D.gray-man. [ Kanda ]

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