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Time to say good-bye
2025/07/15[Tue]
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2006/10/11[Wed]

※this is dream novels ( nearly ) .
 Are you all right?

雨だれの音が薄暗い無機質な廊下に反響していた。いっそ薄気味悪いくらいに静かなのは辺りが既に闇に染め上げられてしまった後だからだろうか。雨は降り続いている癖にぼんやりと薄明るい月の光が窓の外で揺れていた。雨粒で拡散した光はそれでも輝きを失わずに消えかけた電飾のように落ちて来る。ドアを開けると電灯の付いていない室内はカーテンのかかっていない窓からの薄明かりでぼんやりと照らされていた。それは黒というよりも灰色、灰色というよりは幾分か紫がかった色をしていた。まるで纏う漆黒を彼にゆずってしまったかのように。そしてその紫に包まれて一人の少女が眠っていた。彼は漆黒のコートを脇の椅子にかけて彼女の隣へ歩み寄る。ひどく静かなのは寝ているからだろうか。ああ、寝息とはこんなにも静かなものだっただろうか。微塵も動かない彼女はまるで体中の色素を失ってしまったかのように白い肌をしていた。そのなかでたったひとつ、紅い唇だけが彼女がここにいると言うことを主張していた。けれど余りにも不自然に紅いその色は現実というよりもむしろ虚無を想像させて彼の脳裏に語りかけてくる。本当はもう彼女など存在しないのではないだろうか。シーツの上に投げ出された彼女の掌を無意識に握るとそれはまるで氷を握っていたかのように冷たかった。指先から体温が奪われてゆく。思わず強く握ると彼女は「ん」とくぐもった声を出して目を開いた。「・・ ・ 泣いてるの?」目を覚まして何を言い出すかと思えば。余りの唐突な彼女の台詞に彼は思わず落胆にも似た微妙な表情を携えた。「泣いてねぇ」「泣きそうだよ?」「そうかよ。」まるい瞳を開いた少女は少女というには妖艶で、女というにはあどけない。そうして目を数度瞬かせながら寝起きらしい半分擦れたような声で言う。どうせそんなとろとろとしたまどろみの中では俺の顔なんてはっきり見えてやしないだろうに。ため息を吐きながら、それでも心のどこかで安堵を覚えている自分に気が付いて彼は不機嫌に眉を潜めた。そんな彼の胸中を知ってか知らずか彼女は続けた。「あたし体温低いんだよ?」「知ってる」「生きてる よ ?」目の醒めきっていないそんな頭でどうして、どうしてそんなにも。彼女の聡明さがひどく憎らしく思えた。ぎゅっと強く握り締めた手を話さずにそのまま黙ってしまった彼の手を彼女もまた握り返して目を細める。雪のように白く冷たかった彼女の手には彼の体温が少しずつ浸透していく。「おかえり、 」微笑んで紡いだ彼女の言葉は生身の人間の温度をしていた。

( その手が二度と冷えないように、もうこの手を離したりなどするものか。 )  D.gray-man [ Kanda ]

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